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パンドラのはこ
パンドラの匣
線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁
生涯、忘れ得べからざる日である。一高の発表を見に行った。落ちていた。胃と腸が、ふっと消えたような感じ。体内が、空っぽになった感じ。残念、という感じではない。ただ、ホロリとした。進が、ふびんだった。でも、落ちて当然のような気もした。
家へかえりたくなかった。頭が重くて、耳がシンシン鳴って、のどが、やたらに乾く。銀座へ出た。四丁目の角に立って、烈風に吹かれながらゴー・ストップを待っていたら、はじめて涙が出た。声が出そうになった。無理もねえさ、生れてはじめての落第だもの、と思ったら、とても耐え切れなくなった。どうして歩いたか、わからない。振り返って僕を見たひとが、二人あった。地下鉄に乗った。浅草雷門まで来た。浅草は、大勢の人出であった。もう泣いていない。自分を、ラスコリニコフのような気がした。ミルクホールにはいる。卓の上が、ほこりで白くなっている。僕の舌も、ほこりでざらざらしている。とても呼吸が苦しい。落第生。いい図じゃねえぞ。両脚がだるくて、抜けそうだ。眼前に、幻影がありありと浮ぶ。
ローマの廃墟が黄色い夕日を浴びてとても悲しい。白い衣にくるまった女が下を向きながら石門の中に消える。