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パンドラのはこ
パンドラの匣
線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁
死生
1
とでもいうべき状態になってしまう、と言えば少し大袈裟だが、とにかく多少、たじろぐのは事実だ。どうも気になる。いまも僕は、あのひとの笑い声のために手紙を書くのを中断せられ、ペンを投げてベッドに寝ころんでしまったのだが、どうにも落ちつかなくて堪え難くなって来て、寝ころびながらお隣の松右衛門殿に訴えた。
「マア坊は、うるさいですね。」そう僕が口をとがらせて言ったら、松右衛門殿は、お隣りのベッドに泰然とあぐらをかいて爪楊子を使いながら、うむと首肯き、それからタオルで鼻の汗をゆっくり拭って、
「あの子の母親が悪い。」と言った。
なんでも母親のせいにする。
でも、マア坊も、或いは意地の悪い継母なんかに育てられた子なのかも知れない。陽気にはしゃいでいるけれども、どこかに、ふっと淋しい影が感ぜられる。なんて、どうもきょうの僕は、マア坊を、よっぽど好いているらしい。
「つくしにね、鈴虫が鳴いてるって言ってやって。」
その時から、どうも僕はへんだ。つまらない女なんだけれどもね。
九月七日
死生
1
きのうは妙な手紙で失敬。季節のかわりめには、もの皆があたらしく見えて、こいしく思われ、つい、好きだ好きだ、なんて騒ぎ出す始末になるのだ。