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パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁

青空文庫

僕は、今夜、兄さんにお願いした。

「もう学校の様子も、だいたいわかったから、そろそろ本格的に演劇の勉強をはじめたいと思っているんだけど、兄さん、早くいい先生のところへ連れて行ってね。」

「今夜は、ひどく真面目に考え込んでいると思ったら、その事か。よし。あした、津田さんのところへ行って相談してみよう。どんな先生がいいのか、とにかく津田さんのところへ行って、聞いてみようよ。あした一緒に行こう。」兄さんは、きのうから、とても機嫌がよい。

あすは天長節である。何か、僕の前途が祝福されているような気がした。津田さんというのは、兄さんの高等学校時代の独逸語の先生で、いまは教職を辞して小説だけを書いて生活している。兄さんは、このひとに作品を見てもらっているのだ。

夜はおそくまで、部屋の整頓。机の引出の中まで、きれいに片づけた。読み終った本と、これから読む本とを選りわけて、本棚を飾り直した。額の絵も、ピエタのかわりに、ダヴィンチの自画像をいれた。意志的に強いものが欲しかったからだ。鵝ペンを捨てた。少女趣味を排除したかったのだ。ギタは、押入れにしまい込んだ。ずいぶん、サッパリした気持である。