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パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

線上閱讀太宰 治《パンドラの匣(パンドラのはこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 頁

青空文庫

芸術家の運命は、いつでも、そんなものだ。

誰か僕の墓碑に、次のような一句をきざんでくれる人はないか。

「かれは、人を喜ばせるのが、何よりも好きであった!」

僕の、生れた時からの宿命である。俳優という職業を選んだのも、全く、それ一つのためであった。ああ、日本一、いや、世界一の名優になりたい! そうして皆を、ことにも貧しい人たちを、しびれる程に喜ばせてあげたい。

十二月二十九日。金曜日。

晴れ。春秋座、歳末の総会。企画部の委員に、僕が当選した。脚本選定その他、座の方針を審議する幹部直属の委員である。責任の重大さを感じる。

また、正月二日のラジオ放送、「小僧の神様」の朗読は、市川菊松ひとりに、やらせてみる事に決定された。二箇月の旅興行に於ける僕の奮闘が、認められた結果らしい。けれども僕は、いまは決して自惚れてはいない。

己れ只一人智からんと欲するは大愚のみ。(ラ・ロシフコオ)

まじめに努力して行くだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らない事は、知らないと言おう。出来ない事は、出来ないと言おう。思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところらしい。