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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

和の密使

などと、見て来たようにいう者には、何も実際は分っていないのであった。

けれど、何となく、和戦両様の空気が城将間にあることを感じると、

「和とは何だ、この期になっても、まだ和を考える余地がどこにある。腰抜けめ」

一般の激昂はいやが上にも燃え募った。忿懣のうえに重なった忿懣である。それもこんどは誰へ向けていいやら分らない怒りだ。天へ向って哭くしかないものであった。

そうした家中の人々は、ふと、自分たちのまわりに、端なくも一つの不審を見つけ出した。何かというに、それは例の片目、足なえですぐ目につく斎藤下野の姿が、近頃とんと見当らないことであった。

和の密使

「下野殿には、どこへ行かれたのか?」

と、斎藤下野の家人に訊いても、口をつぐんで一切知らないというし、日頃、親しい友人にたずねても、

「一向に存ぜぬが」

と、共に不審がるばかりであった。

邸を窺うと、病気で寝ているふうもない、召使は厳重に口止めされているらしい。こうなるとなお知りたいのが当然な心理である。

「わかった!」

ひとりが、衆へ伝えた。

もう秋ぐち、つい二、三日前から八月だった。旗本辛崎図書之助が、同じ組の血気な中堅ばかりの寄っている城中の用部屋へ来て、