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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

旗本対旗本

――余りに気の急いた為、一槍、むなしく突き損じた原大隅が、

「ちいッ」

と、ばかり反れ槍を持直して、謙信の馬の三頭を力まかせに撲りつけた為であった。

旗本対旗本

「見えぬっ」

「何処へ」

「はや、お討死か」

千坂内膳、和田兵部、大国平馬、鬼小島弥太郎など、旗本八、九名は、みな徒歩立ちであったため、主君謙信のすがたを途中に見失ってしまい、

「われわれ、片時たりとお側を離れずにいたものが、お館様おひとりを敵中に見失い、万一あっては、それこそ世の物笑い、末代までの恥」

と、彼方此方を、殆ど、無我夢中に駆けまわり、暴風雨に吠ゆる樹々のように、

「わが君っ」

「お館さまあっ」

と、呼ばわり捜していた。

すると、同じ組の士、芋川平太夫と永井源四郎のふたりが何処から来たか、天に吹き落された小雀のように、彼方の陣幕の蔭へ向って、驀しぐらに飛びこんで行くのが見えた。

「やっ。平太夫が」

「さては御主君もあの辺りに」

面々は先を競って、その幕囲いへ奮迅していた。いや、上杉方の十二旗本ばかりでなく、附近の敵の小屋や幕囲いの間を、右往左往していた武田方の旗本も、主君信玄の座所たる営中に何かしら異様な音響を聞きとめて、ひとしく同じところへ向って駆け蒐まっていた。