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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

一塊炎

そのかわりに一種、身に迫る凄気が、十名の心をしめつけた。

一塊炎

信玄は、本堂の真正面に、床几をおかせて、倚っていた。具足のうえの緋の衣も、その怒れる顔も、さながら一塊の焔のように見える。

階の下に、十名はひきすえられた。九名をうしろに、斎藤下野ひとりは、前に突き出されて、坐ったのである。

刮っと、炬のような眼で、信玄はにらみ下ろしている。実に長いここちのする間であった。――下野も黙然と信玄の顔を見ているらしかった。

「使者。――いや、下郎。そこな片目の足なえ。なぜ、返辞をせぬか」

斎藤下野は、信玄の感情をなだめるような、口ぶりで、

「お館には、もうそれがしの名をお忘れですか。それがしは謙信の家臣斎藤下野ですが」

と、いった。

次に、信玄は、持ち前の雷声一喝で、いきなり呶鳴ろうとしたらしい。そうらしい血色と肩の厚い肉が瘤みたいに盛り上がった。だが、四十二ともなると、若い頃の武田晴信とちがって、分別というものが、こみあげる激情の瞬間にもよく間に合うものらしい。忽ち、にやにやと笑い出したのである。そして語調を一変して、こう訊ねた。

「そうそう、越後の使者斎藤下野であったか。