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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

「わかりました」おしのはまた頷いた、「できるだけ早くそうするように致します」

医者が帰るとすぐに、おしのは亀戸の寮へ使いをやった。母に来てもらいたい、ということづてを命じ、駕籠でゆかせたのであるが、おたみというその若い女中は、帰って来ると、喜兵衛に向かって、「おかみさんは躯のぐあいが悪くて来られないそうです」という返辞を伝えた。おしのがちょっと座を外していたあいだのことで、珍らしく喜兵衛は怒った。

「どうして迎えなどやったんだ」喜兵衛は尖った声で云った、「迎えをやっても来ないことはわかっているじゃないか」

「ごめんなさい」おしのは眼で詫びながら答えた、「どうしても相談しなければならないことがあるんです、あたしちょっといって来てもいいでしょうか」

「相談とはどういうことだ」

おしのは勇をふるうという気持で、医者の云ったことを父に告げた。喜兵衛は終るまで聞かずに、激しくおしのを遮った。

「私は寮などへゆかない、そんなことをしなくとも大丈夫だ」

「だってお父つぁん」

「いや、大丈夫だと云ったら大丈夫だ」と喜兵衛は云った、「この病気のことなら医者よりも私のほうがよくわかる、私は若いころから躯のことには気をつけているし、この病気にかかってからは、病気に波のあることや、その波がしらを逃げるこつも覚えた、いや本当だ」