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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁
五
逢うときはおみののほうから知らせて来るし、場所はいつも一流の茶屋で、費用も一度として彼に払わせたことがない、使った金は五十両に近いだろう、彼はすっかりのぼせあがってしまった。
「あのとおりの縹緻で、金がふんだんにあって、おまけに触れなば落ちんという風情でもちかけられるんだ、これでのぼせあがらなければ男じゃあない、そうだろう」
「なんだか化かされてるみたような、いっそきみの悪い話じゃあありませんか」
「これがもし化かされてるんなら」と彼は酒を呷って云った、「生涯化かされたままでいたいようなもんだ」
そのへんで頭の芯まで酔いがまわったらしい、おそろしく熱をあげて饒舌ったあげく、酔い潰れて横になった。むろん吉田屋のその座敷で潰れたものと思っていたが、眼をさましてみると水谷町の自分の家で、夜はすっかり明けていた。――いつどうして帰ったか、酔い潰れてからの記憶はまったくない。枕許に折詰や手提や財布、鼻紙などが置いてあり、しらべてみると、手提の中も財布も、持って出たときのままで異状はなかった。
「ふしぎな娘だ」頭の痛みに顔をしかめながら、彼は口の中で呟いた、「約束を守らなかったので怒った筈だが、それでも勘定は払い、土産の折まで持たせたのか」