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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

四

それが済んでから、三人が帳簿を持って来、喜兵衛の枕許で説明をした。喜兵衛は夜具の上に坐り、いちいち帳簿をつき合わせながら聞いていた。十二時ちょっとまえに年越し蕎麦が来、番頭たち三人が喰べた。おしのは箸を付けただけで、父に薬湯をのませようとしたが、「もうすぐに終るから」と云って、喜兵衛は算盤を置こうとしなかった。そうしてすっかり終ったとき、喜兵衛は手洗いにゆき、その戻りに廊下で喀血して倒れた。

血の量はそれほど多くはなかったが、このまえのときがひどかったし、躰力がまだ恢復していなかったため、喀血したあと失神し、夜が明けるまで昏睡状態が続いた。

四

おしのは夜明けを待って、亀戸へ使いをやった。医者の横山参得は首を振った。

「どんな名医でもだめだ」と参得は病人の枕許で云った、「もう人間の手には負えない、明日までもむずかしいと思う」

おしのは番頭たちと相談をし、例年どおり元旦を祝うことにした。どんなことがあっても、父は必ず店のしきたりを守った。おしのはその父の性分を盾に取り、番頭たちの反対を押し切って、いつものように祝儀の支度をさせた。――亀戸へ使いにやったのは、年上の女中のお孝であったが駕籠でいったにしても帰りが早く、おしのを廊下へ呼んで、「おかみさんは留守でした」