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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

四

おつるは頭を垂れ、「済みません」と云って、すぐに眼をあげた、「――でもいったい、あなたはどなたでしょう、お名前だけでも聞かせて下さいませんか」

「道ばたですれちがっただけの者よ」

「でもそれではわたしの気が済みませんもの」

「いいわ」とおよねは立ちあがりながら云った、「もしあたしのことを思いだすようなことがあったら、今日を命日だと思って、線香の半分でもあげてちょうだい、それだけで充分よ」

「まあ、そんな」おつるは眼をみはった、「なにを仰しゃるんですか、まあ」

「冗談よ、かんにんしてちょうだい」およねは二人の子供の顔に触りながら云った、「――田舎のおじいさまやおばあさまのところへ帰るのよ、丈夫な、いい子になって、お母ちゃんに孝行なさいね」そしておよねはその座敷を出た。

四

ばくろ町から帰った夜、おしのは風邪をひいたらしく、夜半から急に高熱が出て、まる五日のあいだ寝こんでしまった。

こんどの家は道灌山の下で、大きな植木屋の隠居所であった。それは、佐吉が捜したもので、おしのは京橋の呉服屋の娘、病後の保養にといって借り、佐吉は店のかよい番頭ということにしてあった。