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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

よほど世馴れた年増でも、こういうことはできないだろう。彼は宿酔の重い気分のなかで、うれしさのあまりぞくぞくした。三十八にもなるし、女には飽きるほど馴れているのに、いま自分がうれしくってぞくぞくしているということを、彼は正直に認めた。

その日は治療に来る病人も少なく、午ちかいじぶんに朝食を喰べると、得石は病家へみまいにゆくと云って、平松町の豊島屋へでかけた。――豊島屋は旅館で、門七という男に経営させている。始めてから五年、座敷の数は七つしかないが、客だねがよく、繁昌するので、いま建増しをしているところであった。しかし宿屋だけが商売ではなく、彼は門七に金貸しもやらせていた。

水谷町で同棲しているおくにもそうであるが、門七もまた徳田石順という、本道婦人科の医者の家で下男をしていた。得石は徳田家で修業しているうち、門七の人柄に眼をつけ、五年まえに豊島屋を買ったとき、徳田家からひきぬいて経営を任せた。彼が見込んだとおり、門七はなかなか切れる男で、二年と経たないうちに資金を回収した。得石はそこで、金を遊ばせておく手はないと考え、門七に相談して、日済し貸しをやらせてみたが、これもまず順当に儲けをあげ、現在では貸し金の総額が百二十両あまりになっていた。