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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

九

とおしのは云った、「昔から嫌いだったこと知ってるでしょ、あたしここのほうがいいわ」

「だって暖まっておかなければ帰りが寒いことよ」

「あら、あたし泊っていくのよ」

「泊っていくって」おそのは眼を細くした、「でも、あんたが泊ったら、あの人が困るんじゃないの」

「そのことはあとで話すわ」とおしのは云った、「はい、お燗がいいようよ」

九

「おしのさんが泊るなんてうれしいじゃないの」と菊太郎が云った、「賑やかになっていいわ、ざこ寝をしましょうよ」

炬燵の中で手の動くのが感じられた。菊太郎がおそのの手を握り、握りかたでなにか合図をしたのであろう。それはおそのの声の調子の変ったことでわかった。

「ざこ寝も面白いわね」とおそのは盃を取りながら云った、「まさやもいっしょに寝かしてやろうじゃないの」

「あの人には暇をやりました」

「暇をやったって」

「まだ正月にも帰っていないんですもの」とおしのが答えた、「可哀そうだから子供に会っておいでって、さっきあたしが帰らしてあげたのよ」

「だってまさやがいなくってどうするのよ」

「おまさの代りくらいあたしにだってできるわ」

「あらいやだ」おそのは笑った、「御飯を炊くんだってちっとやそっとのことじゃないのよ、あたしだってまだ一度もしたことがないのに、あんたにそんなことができるもんですか」