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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 頁

青空文庫

八

「朱実、さびしかったろう。今もどって来たぞよ」

途中で求めて来た彼女の薬だの食べ物だの、油の壺などを隅へおいて、

「お待ち、今、明りを灯けてやるからの……」

しかし……明りが燈ると、彼の心は暗くなった。

「おや? ……どこへ行ったのじゃ、朱実、朱実」

彼女の姿は見えないのであった。

冷たいものに拒まれた自分だけの情愛が、むっと、やりばのない憤りに変って、彼は、眼のまえも世の中も暗くなった。その怒りがさめると、なんともいえない淋しさにとらわれて、丹左は、この先とも若くなりようはないし、栄誉も野心も持てないと決まっている、わが老いの身一つを見出して、泣きたいように顔をしかめた。

「ひとに助けられた上、あんなに世話になっておきながら、黙って出てゆくとは……アアやっぱり、それが世間なのかなあ……今の若い女はそうなのかなあ。……それとも、わしをまだ疑って?」

丹左は、愚痴ッぽくつぶやいて、彼女の寝ていた後を、猜疑な眼で見まわした。――見るとそこに、帯の端でも裂いたような小布が捨ててあった。その布にはすこし血がついている。丹左はよけいに邪推が働いて、ふしぎな嫉妬に駆られるのであった。