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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 頁

青空文庫

狐雨

一

狐雨

一

野は灰色に曇っている。今朝の涼しさは「立つ秋」を思わせ、眼に見るものすべてに露がある。

戸の吹き仆されている厨に、狐の足痕がまざまざ残っていた。夜が明けても、栗鼠はそこらにうろついている。

「アア、寒い」

虚無僧は、眼をさまして、広い台所の板敷へかしこまった。

夜明け頃、ヘトヘトになって戻って来ると、尺八を持ったまま、ここへ横になって眠ってしまった彼である。

うす汚い袷も袈裟も、夜もすがら野を歩いていたために、狐に魅かされた男のように草の実や露でよごれていた。きのうの残暑とは比較にならない陽気なので、風邪をひき込んだのであろう、鼻のうえに皺をよせ、鼻腔と眉を一緒にして、大きな嚔を一つ放つ。

ありやなしやの薄いどじょう髭の先に、鼻汁がかかった。恬として、虚無僧はそれを拭こうともしないのである。

「……そうじゃ、ゆうべの濁り酒がまだあったはず」

つぶやいて起ち上がり、そこも狐狸妖怪の足痕だらけな廊下をとおって、奥の炉のある部屋をさがしてゆく。

捜さなければ分らないほど、この空屋敷は昼になってみるとよけいに広いのである。もちろん、見つからないほどでもないが――