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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

「越前勢、ひとりも生かして帰すな」

瀬兵衛の声である。追いかけ追いかけ味方へ云っていた。すでに勝てりと思ったものか、飽くまで追撃してやまない。

「危うし……」

これは危険と感じた麾下もあったにちがいないが、主人の姿を見て、怯むわけにゆかなかった。果たせるかな、妙見坂を降り、尾野路ノ浜の渚まで見える平地まで来ると、俄然、両側から、佐久間勢の押太鼓が、耳も聾せんばかり鳴りとどろき、あたりも見えぬ弾煙が、中川隊をつつみ出した。

瀬兵衛の左右だけでも幾人か斃れた。しかし瀬兵衛はこういう死地には馴れているので、さして驚きもしなかった。

初一念の怒号をつづけて、

「玄蕃に会おうっ。――玄蕃允っ、出でよ」

なお獅子吼していた。

「おう、中川殿よな」

と、敵方から誰か応じた。ゆらっと、黒い大波にも似て、瀬兵衛のすぐ側へ、馬を寄せて来た者がある。

「この老爺、存じはあるまいが、加賀大聖寺の城主、拝郷五郎左衛門じゃ。――よい御首に恵まれ申した。貰うぞ」

槍を付けた。――が余りに、馬と馬とが寄り過ぎていたので、ぐるりと一転するまに、瀬兵衛は振向きざま、

「その頬げたへ、進上」

と、一槍高く、後ろへ、飛電を見せた。