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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

何で、物に指を咥えて、物の下に虐がれてよいものぞ。――物の上に在って、天の下の物を自在に用いるはずの人間が、物の下に置かれなどしたら、もうおしまいというものぞよ……と」

老母は、なお云いつづけた。

「貧乏な時ばかりではない。富めばなおなおそうであろ。物に驕り、物に媚びられ、物を持てば持つで、物の下に召し使われ、あわれ、物には頭の上がらぬ富者が何と多いことかよ。――わが身たちは今、あの子のお蔭で、一城の主の妻となり母となったが、それを忘れてはなりますまい。自身を物の下に置いて、何で一国の上に立てましょう。……のう、寧子よ。そうではないか」

侍女、老臣、若侍など六、七人の影が、紙燭のゆらぎを袂で庇いながら、

「北の丸さま」

「御母堂様――」

と、広庭のあなた此方を、呼びまわりつつ探していた。そして、

「これにおる」

との答を知ると、皆、一つ所に駈けよって来て、口々に、

「奥にも常のお部屋にもお見え遊ばさず、灯ともし頃を、どう遊ばしたやらと、御表の方まで、お尋ねいたしました」

と、安堵を語り合うのだった。

老母は詫びて、

「おう、ここはもう北曲輪の遠い端れよの。……思わず来てしもうたと見える」