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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 頁

青空文庫

「あれか。あれは蕗のとうだよ」

「蕗のとう?」

同役たちは餅を喰いながら――

「この忙しいのに、そんな物を採っていたのか。何でまた、そんな物を、神棚へなぞ上げたのか」

金五は、中腰をすえ直して、炉の火を見つめた。眼のなかにも、火が沸り、ぼろぼろと赤くこぼれた。

「ははは。瀬尾が泣いてる」

ひとりが不用意に笑ったが、他はみな粛と黙してしまった。金五の涙に真摯な光を見たからである。

「俺が採ったのじゃない。お役中に、誰がそんな閑事をしているものか。……御母堂様から拝領したのだ」

「え。御母堂様から」

「聞いてくれ。こうだ。……俺の父、甚右衛門の長煩いを、どうして御存知か、蕗のとうは、痰持ちに無二の薬、病人にやるがよいと、下されたのだ。まだ雪もあるこの寒夜を、北の丸様とお二人して、お庭へ出てやっと手ずからお捜しなされた物を頒けて。……同役、これが泣かずにいられるか。誰か、笑うたが、笑ってくれ、俺は泣く……」

金五は両手で顔をかくした。ふいに、ひとりが立って、神棚の下へ寄った。

「お明りを上げ忘れていた――」

燈明がともった。

皆、その一穂を仰いだ。母堂の心のつつまれている白い物と、榊葉の青さとが、何か、清々しいものを人の胸へ映した。