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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
三
今から振返ってみると、歌がこのごろのように職業者の手に移ってきた路筋もほぼたどることができる。始めには頻々たる流行唄の移植があった。是には年とった者は附いて行くことができず、真似をしようとしても只おかしいばかりであったので、いつとなく純然たる聴手の側に立ち、後には若い者の歌うのを苦々しく思う者も多くなってきたのである。私の生家の近くに、貧しい嫁姑の二段の寡婦が住んでいた。孫の成長をたった一つの心楽しみに、日雇などをして漸うと暮していたが、その婆さんがやがて老耄をして、いつでも手を打って一つ歌を歌っているのを、面白がって私たちは聴きに往った。
酒は酒屋によい茶は茶屋に
女郎は大阪の新町に
是などもたしかにまた、遠い昔の新曲であったろう。それをこの婆さんは聴いて覚えていたのである。酒が自由になると酒宴はどこででも開かれる。そうして無検束にその酒を販がんとする女性が、わざと別種の歌を唱えて、古風な酒盛りから男たちを離反せしめたのである。酒屋が新たに興って、家の女房が酒の管理権を失ったことが、何よりも大きな凡人文芸の衰微のもとであった。
三
海辺の村々でいうと、船が遠くの湊に往来するようになって、やはり女性の歌がだんだんと省みられなくなり、男ばかりがだみ声を振り揚げて、早く酒席を狼藉たらしめることになったとも見られる