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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

二

久しく打棄ててあった故に、これが存外に容易な仕事ではないのである。

二

「炉」という漢語が日本に入って来たのは、囲炉裏の文字の出現よりはずっと古い。我々の先祖は太古から火を焚いていたはずだから、その火焚き場を意味する名詞は、これに先だって必ず有ったのであるが、少なくとも中央においては夙くこれを忘れている。そうして偶然にヰロリという語にもロの音があったために、それに基づいてこのような宛て字を発明したらしいが、はたしてもとの語が精確にヰロリであったのやら、ただしは是と大分近い音であったために引付けられたのやら、今ではまだ断定するだけの資料が無い。これを決するにはその一つ前の日本語を見いださなければならぬ。そうしてこの語はすでに悠久の年代を経て、「炉」という名の輸入以前にも、かなりの変遷を遂げていたらしいのである。

史書にはこの経過を跡づける資料が至って乏しい。それ故に我々は書外の資料、無形の記録を尋討するのほかはないのである。地方に現在行われている言葉いは、むろん後代になって制作しまた流布したものがまじっている。しかし一つの単語の領域を広めるためには、幾つかの条件を具える必要があって、物と一緒に移動して行かぬかぎり、個々の小さな中心で起こったものが、遠くの土地までを征服することはむつかしい。