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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

しかし民衆がなお固有の意義に就こうとするのを、指導することまでは流石にできない。それだからまるまるこの一語を罷めてしまわぬかぎり、清濁二流れの言葉の意味が、絶えずこの理解を混乱させることは避けられぬのである。近世の文学でも井原西鶴などは、元来あの人が唯物史観なのだから、なんでも裏面の事情へ持って行こうとするのだと、解せられているかも知れぬが、実際はそれが昔ながらの俗物のコヒであった。だから芭蕉翁のつつましやかな俳諧を見ても、

松かさおくる武隈の土産       芭蕉

草まくらをかしき恋もしならひて    不玉

ちまたの神に申すかね言       曾良

こういったような浮世ごとも想像せられている。或いはまは有名なる『炭俵』の一聯、

うは置きのほし菜刻むもうはの空    野坡

馬に出ぬ日は内で恋する       芭蕉

かせ買ひの七つ下りをおとづれて    利牛

これなどは明らかに賤が伏屋の最も凡庸なる者の生活であって、和歌にはすでに見離され、俳諧はなおその客観の情趣を、取り上げてあわれと詠めているのであった。それを宜麦の『続絵歌仙』などには、門流の者の解説でありながら、もう意味もわからずに人形芝居のような絵にしている。