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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
女は通例自分たちの事を噂せられるのを、知らずに過ぎるということはないものですが、奇妙に俳諧だけは冷淡視していました。その原因は御承知のごとく、俳諧というものが連歌の法式を受け継いで、初めの表の六句ではなるべく女性を問題とせず、特に恋愛は取扱わぬことにしていまして、そうして今日俳諧として鑑賞せられているのが、そのまた第一の句だけであったからであります。店先にはまじめくさった年輩の男たちばかり出入しているのを見て、これは女などには用の無いところと、奥には何があるのかを覗いて見ようともせずに、素通りした人の多かったのも無理はありませんが、実はその暖簾の陰にこそ、紅紫とりどりの女の歴史が、画かれてあったのであります。歴史にこの無数無名の二千年間の母や姉妹が、黙って参与していたことを信ずる者は、これを説くためにも俳諧を引用しなければなりません。そうして私がこの意外なる知識を掲げて、人を新たなる好奇心へ誘いこむ計略も、白状をすればまた俳諧からこれを学びました。
『七部集』は三十何年来の私の愛読書であります。これを道案内に頼んでこの時代の俳諧の、近頃活字になったものも追々に読んでみました。