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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
主人が壮年にして死歿しまたはいなくなる百姓の家庭は、昔とても決して尠なくはなかった。そういう家で家業を持続することは、農は他のいずれの業よりも殊に困難なる事情があった。現に今日ではそれが大抵は農廃業の一つの原因となり、また多くは離散零落を伴のうている。作り高と村の戸数とを減少せしめざるを主義とした前代の農政では、とくにこの場合に向かって色々の方法を立てていたことが、『地方凡例録』などを見てもよく窺われる。娘があれば年が違っても聟を取る。後家には出来る限り入夫をする。こういうことは必ず家族関係を複雑にし、年老いたる者を不幸にする種であったが、それすらも避けることが許されなかった。或いは十歳前後の男の児ばかりで、母が末を案じて二度の夫を迎えまいとする場合などには、普通は一時家をたたみ、親子分かれ分かれに奉公などをして相続人の成長を待つのであるが、その間の土地管理が困難で、
作り高は村内の者に都合よく分け持たせ、後々再び有付かせ候様、
返し遣はすべく候云々
という類の訓令は、各領ともに幾らでも発せられているが、もし租税が重ければ村内に引受手が得にくく、新田場などのように負担が軽ければ、喜んで預かってくれるかわりに返したがらず、また取戻しにくくなっていたのである。