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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

五

康子は、言われるまゝに、片手をのばした。

五

「お湯ね、これは……」

「いつか温泉を調べに来た若い学者が、氷の割れ目から落ちて死んだのは、このへんですよ。たしか……。わしは、スキーはちつとばかりやりますが、スケートつてやつはきらいでね」

「運動はなんでもなさるの?」

「ひと通りやつたね。だが、わしは、どうも競争となると本気になれんたちだで……ひとりでやることなら、相当がんばるですよ」

「面白いたちね。負けるのがおいやなの?」

「それもあるかもしれんね。しかし、勝つた時の方がなおさみしいね。そんなこと言つてもだれも本気にせんから困るですがね」

「あたし、わかるような気がするわ。でも、スポーツつて、ほんとは、そんなもんじやないんでしよう?」

「どうだかしらんが、わしはトツプを切るつてことより、なんかしら、ほかのところに自分の本領があるつて気がして……。ほら、ほら、もつとまんなかにいないと、舟がかしぐですよ」

井出康子は、あわてゝ舟べりからひじをはなした。彼女はさつきから、今日の首尾はどうであろうと考えていた。北原ミユキがどんな表情で自分たちを迎えるか? 両親はどこまでのことをのみこんでいるのか?