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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
きのうの接待に疲れたといって、彼は人払いをしてひと間に引き籠っていたが、点燈ごろになって少納言信西を召された。大方はいつもの歌物語であろうと気を許して、信西入道はゆるゆると支度して伺候すると、忠通は待ちかねたように彼を呼び入れて出逢った。入道がきのうの不参の詫びをしているのを耳にも入れないで、忠通は唐突に言い出した。
「早速じゃが、入道。頼長はこの頃もお身のもとへ出入りするかな」
「折りおりに見られまする」
「学問はいよいよ上達するか」
「驚くばかりの御上達で、この頃ではいずれが師匠やら弟子やら、信西甚だ面目もござりませぬ」
信西はすこしゆがんだ唇をほどいてほほえんだが、聴く人はにっこりともしなかった。
「調達は八万蔵をそらんじながら遂に奈落に堕ちたという。いかに学問ばかり秀でようとも、根本のこころざしが邪道にねじけておっては詮ない。かえって学問が身の禍いをなす例もある。予が見るところでは弟の頼長もそれじゃ。彼がお身のもとへ参ったら、この上に学問無用と意見おしやれ」
善悪にかかわらず、うかつに返事をしないのが信西の癖であった。彼は今夜もしばらく黙って考えているので、忠通はすこし急いた。