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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
塚の祟り
一
かれは赫となって思わず杖をとり直したが、清治の怖い眼に睨まれてすくんでしまった。藻は知らぬ顔をして悠々とゆき過ぎた。
塚の祟り
一
「おお、入道よ。ようぞ見えられた」
関白忠通卿はいつもの優しい笑顔を見せて、今ここへはいって来たひと癖ありそうな小作りの痩法師を迎えた。法師は少納言通憲入道信西であった。当代無双の宏才博識として朝野に尊崇されているこの古入道に対しては、関白も相当の会釈をしなければならなかった。ことに学問を好む忠通は日頃から信西を師匠のようにも敬っていた。
「きょうは藻という世にもめずらしい乙女がまいる筈じゃ。入道もよい折柄にまいられた。一度対面してその鑑定をたのみ申したい」と、忠通はまた笑った。
「藻という乙女……。それは何者でござるな」と、信西もその険しい眉をやわらげてほほえんだ。
「これ見られい。この歌の詠みびとじゃ」
関白の座敷としては、割合に倹素で、忠通の座右には料紙硯と少しばかりの調度が置かれてあるばかりであった。忠通は一枚の料紙をとり出して入道の前に置くと、信西はその歌を読みかえして、長い息をついた。
「なにさまよう仕まつったのう。ひとり寝の別れという難題をこれほどに詠みいだすものは、世におそらく二人とはござるまい。