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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

三

なんのそれが不孝であろうぞ」

千枝松はあとの句を継ぐことが出来なくなった。

藻は勝ち誇ったように笑った。

「おまえとも久しい馴染みであったが、もうこれがお別れになろうも知れぬ。今もお前が言うた通り、来年は男になって、叔父さまや叔母さまに孝行しなされ」

彼女は幽霊のように元の闇に消えてしまった。

三

千枝松はその晩眠らずに考えた。

「陶器師の婆の言うたに嘘はない。藻はむかしの藻でない。まるで生まれ変わった人のような」

あしたはもう一度たずねて行って、今度はなんといって口説き伏せようかと、彼は疲れ切った神経をいよいよ尖らせて、秋の夜長をもだえ明かした。あかつきの鶏の啼く頃から彼は又もや熱がたかくなった。

「それお見やれ。しかと癒り切らぬ間にうかうかと夜歩きをするからじゃ」と、彼は叔母から又叱られた。叔父からも命知らずめと叱られた。

そうして、四日ばかりは外出を厳しく戒められた。

いかにあせっても、千枝松は動くことが出来なかった。四日目の朝には気分が少し快くなったので、叔母が買物に出た留守を狙って、彼は竹の杖にすがって家を這い出した。三、四日のうちに今年の秋も急に老けて、畑の蜀黍もみな刈り取られてしまったので、そこらの野づらが果てしもなく遠く見渡された。