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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

二

頼長はこの兄を押し傾けようと内々に巧んでいるのじゃ」

「よもや左様な儀は……」と、信西はすぐに打ち消した。

「いや、証人がある。彼が口から確かに言うたのじゃ」

余人に洩らすなと口止めをしたのを忘れたように、忠通自身がその秘密をあばいた。

「その証人は……」

相手のおちついているのが、忠通には小面が憎いように見えた。

「証人は玉藻じゃ。彼はきのう玉藻に猥りがましゅう戯れて、あまつさえそのようなことを憚りもなしに口走ったのじゃ」

「ほう、玉藻が……」

信西のひとみは忠通と同じように鋭く晃った。

二

それから二日経って、玉藻のもとへ左少弁兼輔の使いが来た。彼はこのあいだの約束を果たすために、あすは法性寺へ誘いあわせて詣ろうというのであった。玉藻は承知の返し文をかいた。そのあくる日、彼女は主人の許しを受けて、兼輔と一緒に法性寺へ参詣した。

その日は薄く陰っていて、眠たいような空の下に大きい寺の甍が高く聳えていた。門をくぐると、長い石だたみのところどころに白い花がこぼれて、二、三羽の鳩がその花びらをついばむようにあさっていた。

叔父と甥との打ち解けた間柄であるので、兼輔はすぐに奥の書院へ通されて、隆秀阿闍梨とむかい合って坐った。