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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
衛府の者どものうちに左大臣や信西入道に心をかよわす者があって、早くもそれを敵に注進されたら、あの精悍な頼長と老獪な信西とが合体して何事を仕向けるかもしれない。あるいは機先を制して、むこうから逆寄せに押しかけて来るかもしれない。下世話のことわざにもある通り、急いては事を仕損ずる。しょせんは彼らを誅伐するにしても、今しばらく堪忍しておもむろに時機を待つ方が安全であろうと、彼女は賢しげに忠告した。
それも一応理屈はあった。殊にそれが玉藻の意見であるので、忠通も渋しぶながら納得したので、彼女はほっとしたような顔をしてそこを起った。
その日の午過ぎに玉藻は被衣を深くして屋形を忍んで出た。清治と女の童の死んだ晩から、さみだれ空はぬぐったように晴れつづいて、俄に夏らしい強い日に照らされた京の町には、もう軽い砂が舞い立っていた。柳のかげには牛をつないで休んでいる人が見えた。玉藻は姉小路の信西入道の屋形をたずねた。
門をはいると、大きい槐の梢に蝉が鳴いていた。車溜りのそばには一人の若い男がたたずんで、その蝉の声を聴いているらしく見えた。男は千枝太郎であった。
「千枝太郎どの」