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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
しかし今はそれを論議している場合でないので、頼長も信西も黙ってその成り行きをうかがっていると、玉藻は関白家の侍どもに護られて、しずかに壇のそばへ歩み寄ったかと思うと、彼女はたちまち顔色を変えた。彼女はなんにも言わずにそのまま引っ返そうとした。
「玉藻の御、お待ちゃれ」
泰親は壇の上から声をかけた。これを耳にもかけない様子で、玉藻はあくまでも引っ返して行こうとするらしいので、堪えかねて頼長も呼び止めた。
「玉藻、なぜ戻る。午の刻からはお身の祈祷でないか」
玉藻はしずかに見返った。その美しいまなじりには少しく瞋恚を含んでいるらしかった。
「きょうの祈祷は雨乞いでござりませぬ。調伏の祈祷とみました。呪詛諸毒薬、還着於本人と、み仏も説かれてある。そのような怖ろしい場所へ立ち寄るなどと思いも寄らぬことでござりまする」
檜扇に白いおもてをかくして立ち去ろうとする彼女を、泰親はかさねて呼び返した。
「さてはお身、この泰親の祈祷を調伏と見られたか。して、その祈らるる当の相手を誰と見られた」
「問うまでもないこと。雨乞いならば八大龍王を頼みまいらすべきに、壇の四方に幣をささげて、南に男山の正八幡大菩薩、北には加茂大明神、天満天神、西東には稲荷、祇園、松尾、大原野の神々を勧請し奉ること、まさしく国家鎮護悪魔調伏の祈祷と見ました。