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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
よろめき出た。筑紫育ちの熊武はまさしく彼女を魔性の者と見て、猶予なく鉞を取り直して縁のあがり段に片足踏みかけると、その一刹那である。彼を盲にするような強い稲妻が颯とひらめいて来て、彼のすがたは鷲に掴まれた温め鳥のように宙に高く引き挙げられた。
世はむかしの常闇にかえったかと思われるばかりに真っ暗になって、大地は霹靂に撃たれたようにめりめりと震動した。忠通も眼がくらんで俯伏した。女たちは息が詰まって気を失った。侍どもも顔を掩って地に伏していると、黒い雲の上から庭さきへ真っ逆さまに投げ落とされたのはかの熊武の亡骸であった。その身体は両股のあいだから二つに引き裂かれていた。
この怪異におびやかされた人たちが初めて生き返ったように息をついたのは、それから小半※(「日+向」、第3水準1-85-25)の後であった。松明は再び照らされて、熊武のおそろしい死骸を諸人の前に晒したときに、気の弱い女たちは再び気を失ったのもあった。忠通も暫くは声も出なかった。玉藻の姿はどこへか消え失せてしまった。
「宇治の左大臣殿お使いでござる」
早馬で屋形の門前へ乗り付けたのは、頼長の家来の藤内兵衛遠光であった。