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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
象は雪のように白かった。
象の背中には欄干の付いた輿のようなものを乗せていた。輿の上には男と女が乗っていた。象のあとからも大勢の男や女がつづいて来た。まわりの男も女もみな黒い肌を見せているのに、輿に乗っている女の色だけが象よりも白いので、千枝松も思わず眼をつけると、女はその白い胸や腕を誇るように露わして、肌も透き通るような薄くれないの羅衣を着ていた。千枝松はその顔をのぞいて、忽ちあっと叫ぼうとして息を呑み込んだ。象の上の女は確かにかの藻であった。
さらによく視ると、女は藻よりも六、七歳も年上であるらしく思われた。彼女は藻のような無邪気らしい乙女でなかった。しかしその顔かたちは藻とちっとも違わなかった。どう見直してもやはり藻そのままであった。
「藻よ」と、彼は声をかけて見たくなった。もしそのまわりに大勢の人の眼がなかったら、彼は大きい象の背中に飛びあがって、女の白い腕に縋り付いたかもしれなかった。しかし藻に似た女はこちらを見向きもしないで、なにか笑いながらそばの男にささやくと、男は草の葉で編んだ冠のようなものを傾けて高く笑った。
空の色は火のように焼けていた。