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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

三

「藻はどうしたか」

彼はしきりにそれを案じていながらも、意地の悪い病いにおさえ付けられて、いくらもがいても起きることが出来なかった。叔母も起きてはならないと戒めた。それから五日ばかりの間、彼は病いの床に封じ込められて、藻の身の上にも、世間の上にも、どんな事件が起こっているか、なんにも知らなかった。

三

碧い空は静かに高く澄んでいるが、その高い空から急に冬らしい尖った風が吹きおろして来て、柳の影はきのうにくらべると俄に痩せたように見えた。大納言師道卿の屋形の築地の外にも、その柳の葉が白く散っていた。

ひとりの美しい乙女が屋形の四足門の前に立って案内を乞うた。

「山科郷にわびしゅう暮らす藻という賤の女でござります。殿にお目見得を願いとうて参じました」

取次ぎの青侍は卑しむような眼をして、この貧しげな乙女の姿をじろりと睨めた。しかもその睨めた眼はだんだんにとろけて、彼は息をのんで乙女の美しい顔を穴のあく程に見つめていた。藻はかさねて言った。

「承りますれば、関白さまの御沙汰として、独り寝の別れというお歌を召さるるとやら。不束ながらわたくしも腰折れ一首詠み出でましたれば、御覧に入りょうと存じまして……」