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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

と、翁は急に笑い出した。「宵の薄暗がりで婆めが何か見違えたのじゃ。さもなくば、人の見ぬ頃をはかって、そこらの川へ捨てに行ったのであろう。髑髏を額にかざして冠にもなるまいに。ははははは」

むぞうさに言い消されて、婆は躍気となった。彼女は手真似をまぜてその時のありさまを詳しく説明した。その間に彼は幾たびか柴の煙りにむせた。

「なんの、わしが見違えてよいものか。藻はたしかに髑髏を頭に頂いていたのじゃ」

「こりゃじい様のいう通り、なにかの見違えではあるまいかのう」と、千枝松は不得心らしい顔をして側から喙をいれた。

左右に敵を引き受けて、婆はいよいよ口を尖らせた。

「はて、お前らは見もせいで何を言うのじゃ。わしはその場へ通りあわせて、二つの眼でたしかにそれを見とどけたのじゃ」

「見たというても老いの眼じゃ。その魚のような白い眼ではのう」と、千枝松はあざ笑った。

「なんじゃ、さかなの眼じゃ」と、婆は膝を立て直した。「これでもわしの眼は見透しじゃ。お前らのような明盲と一つになろうかい」

「なにが明きめくらじゃ」と、千枝松も居直った。

「そんならわしを、さかなの眼となぜ言やった」