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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁
二
岸辺を北の方へ歩いて行った。藤丸の渓流を渡る時、彼は苦心して裾を捲った。掲げられた裾のその下から、太い純白の布を巻いた脚が、ヌッと二本現われたのは、なんという不気味の光景だったろう。その脚を不器用に曲げながら、石伝いに越えなければならなかった。
無生野というのは落葉松の林で、そこには毒蛇が住んでいた。彼は何物をも恐れなかった。林の中へはいって行った。と、シュッシュッと音を立て、枯草の中から無数の蛇が、鎌首を上げて走り出して来た。しかしもちろん一匹といえども、飛びかかって来ようとはしなかった。いずれも波のように背を持ち上げ、同じ所でのたくっていた。意外の時に意外の物を――煌々と輝く深紅の光を、意外に見たということが、鈍感の彼らをも驚かせたのであろう。
音久和の古池の縁を過ぎ、乳守の古代古戦場をも、走るようにして越えて行った。
蘆川の流れは速かった。そうしてそこまでやって来た時、東の山の端が色付いた。
「夜が明ける」
と呟いた。
しかし彼は進んで行った。
一千二百二十尺の、王岳山の頂きが、次第に水色を呈して来た。しかし山肌はまだ暗く、山全体は眼醒めなかった。