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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

世界唯一の奔馬性癩患は、触れるものの命を奪うのであった。

城主の眠りはさめなかった。

自然の美しさには変りなかった。遥かの山の中腹を、大鹿の列が走って行った。

百舌鳥が声を納める頃となった。永い春の日も暮れ逼って来た。

纐纈布の赤袍が、ふたたび焔のように輝く時刻になった。

一つ一つ星が生れて来た。

その時城主は眼をさました。そうしてやおら立ち上がった。

それは一本の火柱が、ノビノビと上へ延びたようであった。その頂きに顔があった。

「甲府へ」

と彼は呻くように云った。

火柱はのろのろと動き出した。それが次第に速くなった。

なつかしい故郷の呼び声がした。急がなければならない。急がなければならない!

鍛冶屋街道に添いながら、城主は飛ぶように走って行った。左右口、心経寺、中岡、滝川、禄岱、寺尾、白井河原、点々と部落が立っていた。彼はもちろん避けて通った。しかし恐らく部落の人達は、彼の姿を見ただろう。

「おや、光物が通って行く!」

「おや、火柱が走って行く!」

「悪い事があるに違いない!」

「神様よ、お守りください!」

彼らのある者は祈ったかも知れない。

「甲府へ!」