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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

目細君は昨日、うわさ話の末に、

「……して見ると、あれはきっと、珍らしくいい人間にちがいなさそうだネ。ただわたしがちょっと心がかりなのは、ひょっとしたら……気の毒なことに、あの人、少し気が変なのではないかしら……」

なんて、首をかしげていたけれど、――何の、俺はそうは思わぬ。あれが本当だと思う。とは言っても、白状すればこの俺とて、最初はあまり勝手がちがうので、――これは……すこしおかしいかナ?……などと、思わぬでもなかったくらいだ。ましてや、なまじ人間界を、いくらかでも覗いている目細君としたら、余計そう気を廻すのも、無理はない。けれどもよく考えて見ると、どうしてどうして、そんなものではあるまいと思う……。

ただしかし、せっかく宝の山に入りながら、乱暴を働くなどは論外としても、周囲の意味深い事物にまるで無関心だったり、無関心でないにしてからが、そこに深く心を潜めようとはしないのが一般とすれば、あの男などは、「気が変」だと評されても、まんざら見当ちがいとばかりは言えないかも知れぬ。――それならそれでいいのだ。「変」でいっこうさしつかえない、どころか、いっそ名誉ではないか。