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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
ふんだんに、いろいろ調子を変えてただよわせたり、さらに葉先きから一種の電波を放ったり……そんなことをやってみた。俺たちだとて、何も人が思うほど、ぜんぜん身動きのならぬというものではないし、こうしたしぐさの中に、われら独特の言葉や伝達の手だてがあるのだ。つまり俺は、平生仲間や友達と話すような仕方で、やはり彼にも話しかける外なかったわけだ。
こんな仕種が、実際どこまで彼に通ずるものやら、たとい中では電波にいちばん自信が持てたにせよ、思えばずいぶん心もとない次第であった。しかし彼は、いかにも考え深い眼色になって、たびたび、何か感に打たれたか、あるいは疑問にぶつかったか……とつぜん筆を休めるのだ。そして絵を岩の端しに離し、自分は傍らの大岩にもたれ加減に、狭い足場の許すかぎり、後ろへ身を退いて、俺と絵とを交み代りに眺め入る。彼も俺同様、あぶなっかしい位置に居るのだ。かと思うと、眼をつむる、天を仰ぐ……それから又ポツリポツリと筆を進める、といった調子だ。筆を動かすより、考えている時間の方が、むしろ多いくらいだろう。
そして時には、会心らしい笑みをもらし、時には眉間にむづかしげなたて皺を刻み、何か呻いたり、舌を鳴らしたり、頭を振ったり、また明るくうなずいたりした。