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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

二 白馬岳の代馬

しかし何ぶん遠くからの仰望とちがい、近くからの俯瞰では事情がちがいすぎ、かつ雪という協力者が働かないので、果してどの辺が爺さんの頭やら、胴体やら、また袋やら、一こう要領を得ることは出来なかった。幽霊ならぬ幻像の正体は、枯尾花ほどもハッキリとはわからない。

二 白馬岳の代馬

白馬岳という名が、新鮮な響きで聞え始めたのは、明治の三十年代で、日本アルプスの探検時代でも比較的古く、登山も植物学者、地学者をはじめ、一般趣味人を加えて、信仰の山以外では、むしろ早い方に属する。それで山名の由来も、白い馬ではなく、代掻き馬の形が出るところから起ったことも、熱心な山党仲間には、早くから知られていた。

ところが、その「代馬」の本体や所在は、大正、昭和と登山の盛期を迎えても、いや最近に至るまで、まるで知られていなかったというのは、どういうわけか、実に不審千万と言わねばなるまい。ただ最初は登山が夏に限られ、雪形出現とは時期がズレていたせいとも言えよう。しかし後にはいわゆる早期登山も行われ、ついには四季を選ばぬこととなっても、それでも「代馬」はなお人に知られずに現われては消えていたのだ。