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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

そしてその中心をなすものは、天をかける幻の馬と、地上を行き戻りする現つの馬である。そこに降り注ぐ春の光に、ここを拓いた祖先の心の豊かさが匂っている。興奮した私は、四谷から細野道を大廻りして大出を訪い、蕨段まで足を伸ばし、杜鵑と夜鷹の声に送られて、永い日もとっぷり暮れた森上さして、今度は満ち足りた心を抱いて帰って行ったのである。

「代馬」は日を経るに従い調子を高め、力を増すようであった。もっといろいろ古老に尋ねたい事もあったし、代馬の運命も見とどけたかったが、本業も終ったので、それは後日にゆずり、一応心ゆくほどの土産を持って、この地を辞することにした。後に矢口君の便りでは、六月下旬まで馬は見えていたらしい。

帰京後、私は友達につぎつぎ「代馬」の話を持ち出して見た。皆な興味をもって迎えてくれたが、同時に意外の感をもなしたようだ。特に山の識者というべき人々からも異論は聞かれなかったし、同調の説も無かったのはむしろ不思議だった。これは広く知らせる必要がある、と私は思った。そこへ故関口泰君や島田巽君が、新聞へ書いたら――と勧めてくれ、朝日新聞の文芸欄に書くことになった。