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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
いやな策だが、この際ほかに手がない。すなわち懸賞。額はよく覚えていないが、日当を少し上廻る数円だったろう。それを触れると、モゾモゾしていた山人たちは、電流でも通じたように飛び出し、菅笠をおっとって蝶を包囲した。私は傷めては駄目なことを注意する。しかしこれもなかなか成功しなかったが、素人とはいえそこは猟師のカンか、兵三郎がとうとう一羽伏せた。私がワクワクしながらそれを取上げて見ると、※(「虫+夾」、第3水準1-91-54)蝶ではなくて蛇目蝶らしい。それにしては鋭い飛び方といい、あの元へ戻る習性など、不審に思った。これでまた「虎ノ子」が一つ増えた。
翌日は連日の晴天と打って変り、朝から霧が捲いて重苦しい山気だった。太郎兵衛平へ下る山稜で、ふと足元に昨日の蝶を見つけた。それが横倒しの翅に露が宿って、触るとパタパタやるが飛べはしない。気がつくと、岩や草のあいまに幾羽もそんなのがいる。難なく数羽を拾い取る。昨日の苦闘に比べると、全く嘘のようだ。同僚は黙っていない。馬鹿だナァ、どうだいこのザマは、懸賞は大出来だったョ云々。何とでも言え。一晩でこうも変るなんて誰が知ろう。