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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

だが、それが却って、古い事も書いておくべきだと思う契機ともなった。何しろ当時の交遊は、既に故人が多い。私自信、彼等に聞いておきたかった事が、たくさんある。

それに当時の山は、全くすばらしかった。昔の事ばかり賞めたがる、例の老人の癖とのみ思い給うな。ほんとうによかったのだ。何故といって、徳川期の藩政が崩れ、明治新時代はまだ手が及ばなくて、山は近代で最も原始的な状態にあったからだ。よかった、というのは、いうまでもなく、その原始的自然なのである。

われらはしきりに同好者を求めた。それが大正の末から急に、山が社会の前面に押し出され、スポーツの舞台になると共に、利益追求の場ともなり、地方人士の都会模倣の風潮とも合して、山の自然は見る見る破壊、損傷されて行った、いや行きつつある、加速度をもって。こうして行ったら、前途は果してどうなることか。山の残骸の上に「史跡天然記念物、日本アルプス遺趾」の標木が立つ――なんという悪夢にうなされかねない。

これは世界各国とも同じ悩みを抱いて、厳重な自然保護に努めている。大陸の広い領域の国ですらそうだ。いわんやこの狭い日本……だのに、保護の手は皆無ではないにしろ、甚だ微力だ。