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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
かりに人間をそこに想像しても、あまりに周囲との比例がちがい過ぎて、暗い山ひだのどこかの隅に、吸い込まれてしまいそうに、気が遠くなる。
三角櫓は、折れ残りの一本足を、天の一角に向け、基石の上には、登山者の名札が数枚、板切れと岩片で押えてあった。時おり雲間を洩れる、信濃の高原――安曇の青野は、この日頃、かどかどしさと暗さに馴れた眼には、まったく別種の、気疎いほどのどやかな世界に見える。ふとどこかで雷鳴がする。と思う間もなく、銀の覆輪を施した厳めしい大積雲の群峯が、濃い桔梗色の天空を四方から押しせばめて――烈しい「お神立ち」がやってきた。
鉱山に一宿を求めるのも面白い。試掘中とかで、鉱山とはいえ、ひっそりともの音もない。事務所の建物は、雪のため傾きながらも、二階建てのガッシリした作りだ。そこには、こういった処によく居るだろう、一種の人物が控えている。――一応尊大で、実は気の毒なほど淋しげな。世間から隔離されたこの人たちにとって、こういう広大にして微妙な四周の自然も、ひっきょう一種の牢獄であって、それ以外の何物でもないらしい。ところで山の中に似合わしからぬ御馳走が、客の前に供せられる。