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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

答えたのは勘介入道である。信玄はうなずいて、また、

「月の入りは」

と、問う。

勘介はまた顧問に糺してから答えた。

「こよい九月九日の月の入りは、子の刻の六分過ぎ(午前零時四十分頃)の由にござります」

「では、間もないな」

「間もございません」

「民部。馬場民部やある」

「はいっ、これに」

「子の刻になったらすぐ貝を吹かせよ。出陣の太鼓打鳴らせ」

「承知いたしました」

「城門を出るには、大正の一万二千を先に立たせい。逸り争わぬように」

各将、心得はもう十分だった。しかし信玄としては、念に念を入れていた。

こうして勢揃いまでしながら、いたずらに時刻を過ごしているのも、夜空の天候が、更けると共に一変して来たからである。宵のうちには、乱雲飛々のあいだに、月のこぼれて来る間は短く刻まれていたが、いつのまにか大空の雲は片寄って、広い星梨地の天体が研ぎ出されていた。正法、奇法の襲撃を問わず、戦いを仕掛ける方にとって、月夜を嫌うことはいうまでもない。

しかし、それも夜半までだった。

「太鼓番っ。打てっ」

馬場民部が合図の声を放つのと同時に、望楼の三面に向って立っていた三名の螺手も、貝口を唇にあてると、満身の息をこめて吹き鳴らした。