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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

捨て篝火

と、命じた。

まだ真っ暗な地上に、工兵たちが、孜々として活動しはじめるうちに、はやくも信玄の本営の幕囲は八幡神社の境内に張り繞らされ、かの孫子の大旆、諏訪明神の旗は、もう血ぶるいして鳴りはためき、帷幕の十二将、百余騎の旗本たちを初め、八千の全将士は、眉を霧に濡らし、草鞋脛当を草霧に埋めて、ともすれば上ずりやすい英気を確と丹田に嚥み下していた。

ゆうべは宵まで雨のこぼれたせいか、今暁の霧のひどさは格別であった。咫尺も弁ぜずという濃霧である。ために、旗や馬印からも、兜の眉びさしからも小雨が降っているのと違わないほど、のべつぽたぽたと雫が落ちていた。

捨て篝火

山越えの迂回をとった正法攻撃隊の進路は、かなり難行軍だった。

西条から道は登りとなり、多田越えはわけて道が狭い。

月の入りを待って立ったことなので、忍び松明は充分に携帯したが、それも余りに火光で天を焦がすと、敵の偵察に嗅ぎ知られる惧れが多分にある。

山は小さいが、峰道もあり谷もありして、清野へ出るまでには兵馬は汗をしぼった。近間な距離ながら時間を要したこというまでもなく、曳々として人馬はすでに戦っているに等しい呼吸だった。