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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

一軒家

もちろん天はまだ暗い。

その暗いのと、霧のために、このときまだ、越後、甲州、両軍とも気づかなかったが、すぐ前方の八幡原には、すでに武田の大軍陣を布き、信玄の牙営とさだめた八幡神社の周囲には、旺に壕を掘り、土塁を築きなどし始めていた時分であった。

その相互の距離は、勿論、後になってから分ったことではあるが、両軍の先鋒と先鋒、わずか十町ほどしか距っていなかったのである。

一軒家

「おや。……何であろう?」

鶴菜は、枕から面を擡げた。

病んでから二十日余り、寝床のうちに籠りきりだったせいか、旅焦けに小麦色していた頬も頸も抜けるほど白くなっている。

「おお、馬の嘶き……あの人声……ただ事ではない」

耳を澄ましていたが、やがて恟っとしたように、どこかしら痛むらしい体を無理に寝床の上に起して、

「神主さま。神主さま!」

と、次の部屋へ呼びたてた。

ここは八幡原の真っただ中、一叢の木立に囲まれている一軒家だった。家のそばには蒼古とした鳥居がある。そして日頃は、老いたる禰宜と家族が住んでいた。

二十日ほど前の黄昏、鶴菜は千曲川の岸で弾に中って倒れ、居あわせた馬糧刈りの人々に担われて、ここの社家まで救われ来たのであった。