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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

それからずっと――

彼女は、親切な老禰宜の世話になって、傷口の養生をしていたが、鉛丸の除り方が素人療治であったせいか、左の脚の甲からくるぶしがひどく腫れあがり、今以て十歩とあるくこともできないのだった。

「神主さま! お内儀さま」

返辞がない。彼女は這った。そしてなお次の間へさけんだ。

「いよいよ戦です。すぐこの近くで戦われそうです。はやく今のうちに、お子達をどこかへ移さないとお怪我をしますよ。流れ弾や、反れ矢が、こちらへも飛んで来ましょう……。お内儀さま、お眼ざめですか」

脚が痛む。起とうとするが起てない。這い寄って、襖を開けた。

そしてまた、もう一間を、這って行った。

返辞のない筈。老禰宜もむすめも、その子どもも、どこへ行ったか、寝部屋は藻抜けの殻になっている。彼女はちょっと茫然としたが、またかえって安心もした容子だった。逸早く、むすめは子を負い、むすめの良人は老禰宜を扶けて、どこかへ避難したにちがいないと察したからである。

「ここへ陣したのは、甲軍であろうか、越後勢か?」

彼女自身は、この一軒家に、ただ独り取残されたことを、さして悲しむふうもなければ、寂しむ面も見えなかった。