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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《上杉謙信(うえすぎけんしん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 頁

青空文庫

この生命

その行動の迅速なことや、また聯絡の手際のよさを見ても、平常から信玄の治領のよく行き届いていることが分るのである。――それを熟知している斎藤下野は、たちまち、これ以上、逃げようとすることの愚を悟って、

「もう、いけない」

と、甘利山中の林のなかに、どかと坐りこんで、他の随員にも、

「むだだ。逃げのびようは無い。むしろ清々と、覚悟の前に、しばし夜明けの秋景色でも眺めようじゃないか」

と、いった。

「…………」

それまでは、ともあれ、血まなこを帯びて、物音に耳を欹てたり、逃げ口をさがしていた人々も、下野の一言に、各※(二の字点、1-2-22)、悲痛な唇もとをむすびながら、

「敵を待って、斬死か!」

最後の肚を極めたらしく、下野に倣って、いずれも、どかと、落葉の中に腰を下ろした。

甲山の秋はすでに濃く、うるしの木は、真っ赤だし、黄いろい葉には、霜があった。――谷の底まで、夜明けの光が映しこんでゆくにつれて、朝霧のなかには細かい虹が立ち、禽はしきりと高音を張りあげていた。

この生命

「…………」

「…………」

みんな素直だった。追手を待って、斬死と極めた顔して。

鳥の音に耳を洗い、眼に満山の秋をながめ、遠く、何事かを、想いやっているらしい。