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せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
線上閱讀牧 逸馬《世界怪奇実話(せかいかいきじつわ「じょぶん」)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 251,305 字 · 498 頁
9
舷側に倚って覗くと、眼の眩むような下に静かな水が拡がって明るい灯を映している。タイタニックはこんなに大きく、こんなに頑丈に、こんなに疑う可くもなく安全なのだ。この親舟を捨てて、押せば引っ繰り返りそうなボウトに乗り込むなどと――第一、タイタニックの様子は何事もなさそうではないか。只気の故か、船尾から船首へかけて鳥渡傾き出しているようではあるが――。
若し現実に危険が迫っているなら、船長から何とか公式にステイトメントが発表される筈だ――最後まで船客にこの公表をしなかったと言うので、スミス船長は未だに些か非難されている。
9
船が何ういう状態にあるか。一時間後二時間後のうちに如何なる事になるか――それを正直に船客に告げることを求めるのは、この場合船長に酷である。
老船長は知っている。
識り抜いている。
間もなくタイタニックは沈むであろうことを。こんなに一同が信頼し切っているタイタニックだ、それが訳もなく沈まなければならないと解っていて、しかも船長は、一言船客を慰めることも出来ず、救助の希望を与える言葉も発見し得ない。しかも、全乗員の半分は早晩海中に抛り出されなければならない。