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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《五瓣の椿(ごべんのつばき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 頁

青空文庫

「こんどのお松は違うんだっていったら」

「それもきまり文句だ」千之助は背を向けたままで、筆を持った手を振った、「さあ出ていってくれ、おれはこれを片づけなくちゃならないんだ」

岡田朔太郎は溜息をつき、首を振りながら出ていったが、閉めた障子をすぐにあけて戻り、「忘れていたよ」と云って、一通のふくらんだ手紙をさし出した。

「おれの書状箱にこれが紛れこんでいたんだ」と岡田は云った、「おしのという女の名まえだが、呼出しじゃあないのか」

「おしの」千之助は受取って署名を見た、「覚えのない名だな、なんだろう」

「おれのお松と同じ口じゃあないのか」と云って岡田はあとじさりをした、「そんな顔をするなよ、冗談じゃないか」

そしてこんどはいそぎ足に出ていった。

千之助は暫く「おしの」という署名をみつめていたが、やがて封を切って、厚くふくらんだその手紙を披いた。厚さ一寸ほどもある巻紙の上に、細長く折った一枚の紙があり、彼はまずそれを読んだ。

――わたくしは日本橋本石町三丁目の薬種問屋、むさし屋の娘しのでございます。

それにはこういう書きだしで、人を殺した罪で自首して出たいが、いつぞや「かね本」